アブラハム物語
アブラハム物語
旧約聖書には面白い話がたくさんある。その中からアブラハムの生涯に関する話を要約してみた。「契約の地カナン」「割礼の制定」「妻を妹と偽る」「ソドムの滅亡」「高齢者の出産」「近親相姦」「生け贄イサク」など興味ある話が含まれる。(『創世記』11:27―25:11)
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西暦前二千年期の始めころカルデア国のウル(ユーフラテス下流にあった古代都市)にテラという男がいた。かれにはアブラム、ナホル、ハランという子があった。アブラムはサライを妻としていたが子はなかった。ナホルはハランの娘ミルカを妻としていた。ハランはテラより先に死に、遺児にロトがいた。
テラはアブラム、サライ、ロトを連れて、カナン地方(いまのパレスティナ辺り)へ向かった。ユーフラテス上流のハランにしばらく滞在したが、テラはそこで死んだ。
主なる神はアブラムにいった。「あなたは私が示す地に行きなさい。あなたを大いなる国民にしよう」
アブラムがハランを出発したとき、彼は七十五歳であった。彼はサライとロトと全財産、さらにハランで加わった人々とともにカナンへ向かった。シケム(ガリラヤ湖と死海を結ぶヨルダン川の中流の西方)の聖所、モレの樫の木まで来たとき、主がアブラムに現れて言った。「あなたの子孫にこの土地を与える。」アブラムはそこに祭壇を築いた。
さらに南に進んで、ベテルとアイの間に天幕を張って、祭壇を築いた。さらに旅をつづけ、ネゲブ地方(ネゲブ砂漠辺り)に達した。
その地に飢饉があったのでエジプトに下った。アブラムは妻に言った。「お前は美人だから、エジプト人がお前を得るために私を殺すかも知れない。『私はこのひとの妹だ』といってくれ」
ファラオは彼女の評判を聞いて宮廷に召し入れ、アブラムには相当の贈り物をした。主なる神は怒って宮廷の人々を恐ろしい病気にかからせた。ファラオはアブラムに言った。
「あなたは私になんということをしたのか。妹だというから、妻として召し入れたのだ。さあ、彼女を連れて立ち去ってもらいたい」 ファラオは彼に妻を返し、すべての持ち物を持たせて立ち去らせた。
アブラムはネゲブ地方へ戻った。そしてベテルとアイの間の、以前、天幕を張った場所に来た。アブラムとロトはたくさんの財産を抱えていたので、いつまでも一緒にいることはできず、別れることにした。
ロトはヨルダン川流域の低地一帯を選んで、東へ進んだ。そこにはソドムとゴモラの地があったが、当時はエジプトのように繁栄していた。アブラムはカナン地方へ進み、ヘブロン(死海中央の西)にあるマムレの樫の木のところに住み、そこに祭壇を築いた。
当時、ソドムの王とゴモラの王は他の諸王と戦っていたが、シディムの谷の戦いで敵に敗れ、ソドムにいたロトも財産もろとも敵国に拉致された。
アブラムはロトの窮状を知って318人の仲間とともに敵を追ってダマスコまで行き、ロトとその財産を取り返した。アブラムが勝利して帰還すると、ソドムの王は彼を迎え、彼の神を称えた。
主がアブラムに幻の中で現れ、「あなたの受ける報いは大きいであろう」といったとき、アブラムは「私に何を下さるというのですか。私には子供がありません」といった。主は「あなたの子孫は天の星のごとく数限りなくなるだろう」と答えた。夕方アブラムは深い眠りの中で主がかれに言うのを聞いた。「あなたの子孫は異邦の国で寄留者となり、四百年のあいだ奴隷にされて苦しむであろう。私はその国を裁くであろう。あなたの子孫は多くの財産を携えて脱出するであろう」。(モーセ率いるエジプト脱出のことであろう。)
その日、主はアブラムと契約を結んで言われた。「あなたの子孫にこの土地を与える。エジプトの川から大河ユーフラテスに至るまでだ」
サライにはハガルというエジプト人の女奴隷がいた。サライはアブラムに言った。「主は私には子供を授けてくれません。ハガルの寝所に入ってください」
アブラムはそうした。ハガルは身ごもり、サライを軽んじ始めたので、サライは怒った。ハガルは逃げた。ハガルが生んだ子は主によりイシュマエルと名づけられた。
アブラムが九十九歳になったとき主が現れて言った。「私は全能の神である。あなたは私に従って歩みなさい。あなたは多くの国民の父となる。あなたはもはやアブラムではなく、アブラハムと名乗りなさい。あなたと私の契約の印に、あなたたちの男子はすべて割礼を受けなさい。生まれてから八日目に受けなければならない。それによって、私たちの契約はあなたがたの体に記されて永遠の契約となる。あなたの妻はサライでなく、サラと呼びなさい。私は彼女に男の子を与えよう」
アブラハムはひれ伏した。しかし笑って、ひそかに言った。「百歳の男に子供が生まれるだろうか。五十歳のサラに子供が産めるだろうか」。神は言った。「サラが生む子にはイサク(彼は笑う)と名づけなさい」
アブラハムはその日のうちに身内の者全員に割礼を施した。
アブラハムに見知らぬ三人の人間が現れてサラに子供が生まれることを告げた。サラは天幕の入り口でそれを聞いた。彼女には月のものがとうに無くなっていた。サラはひそかに笑った。
主はアブラハムに言った。「なぜサラは笑ったのか。主に不可能なことはない」。サラは恐ろしくなり「私は笑いませんでした」と言った。主は言った。「いや、確かに笑った」
ソドムの町は性的不道徳で評判になっていた。神はソドムを罰しようと考えた。アブラハムはソドムのために弁じた。
「ソドムに正しいものが五十人いるとしてもソドムを許さないのでしょうか」「五十人いるならば許そう」
「あえて申し上げます。四十五人いたらどうでしょうか」「四十五人いたら許そう」
「もしかすると四十人しかいないかも知れません」「その四十人のために許そう」
「主よ、どうかお怒りにならないでください。三十人しかいないかも知れません」「もし三十人いるなら罰しない」
「あえて申し上げます。二十人しかいないかも知れません」「その二十人のために滅ぼさない」
「主よ、どうかお怒りにならずに、もう一度だけ言わせてください。もしかすると十人しかいないかも知れません」「その十人のために滅ぼさない」
主はそう言うと去って行った。
二人の御使いがソドムに着いたとき、ロトはソドムの門のところに坐していた。ロトは二人を見て地に触れ伏して「どうか私の家にお泊りください」といった。彼らがロトの家で床に就くか就かないうちに、ソドムの町の男たちが押し寄せ、「今夜お前のところに来た連中をなぶらさせよ」
ロトは「私には娘が二人います。彼女らを差し出しますから、あの客人には手を出さないでください」。男たちは口々にいった。「どけ。よそ者のくせに、指図などするな。まずお前をなぶってやろう」
二人の客人は男たちに目つぶしを食らわせ、ロトを家に引きいれて、戸を閉めて、ロトに言った。「あなたはあなたの身内を連れてここを脱出しなさい。われわれは主に命じられてこの町を滅ぼしに来たのです」
ロトは妻と二人の娘を連れて脱出した。主は言われた。「命がけで逃げよ。後ろを振り返ってはならない」
太陽が昇ったころ、主はソドムとゴモラの上に硫黄の火を降らせ、ソドムとあたりの低地の住民をことごとく滅ぼした。ロトの妻は後ろを振り返ったので塩の柱になった。低地一帯からは炉の煙のように煙が立ち昇っていた。(正しい者は結局ロトら数人で、十人に満たなかったということか。いま死海南端の底にソドムとゴモラの遺跡が沈んでいるといわれる。)
ロトは二人の娘と山の洞穴に住んだ。姉が妹に言った。「父は年老いました。このあたりに男のひとがいません。父にぶどう酒を飲ませ、私たちが父と床を共にし、父から子種を得ましょう」
娘たちはそのようにした。ロトは酒に酔いつぶれてなにも分からなかった。こうして娘たちは父の子を身ごもった。姉は生まれた子にモアブ(父より)と名付けた。彼は今日のモアブ人の祖である。妹は生まれた子にベン・アミ(私の肉親の子)と名付けた。彼は今日のアンモンの人々の祖である。
アブラハムはネゲブ地方へ移り、カデシュとシュルの間に住んだ。ゲラルに滞在していた時アブラハムは妻サラのことを「私の妹です」と言ったので、ゲラルの王アビメレクはサラを召しいれた。その夜、神が王の夢に現れて「あなたは召し入れた女のゆえに死ぬ。その女は夫のある身だ」
王はいった。「彼が彼女は妹だと言ったのです。彼女自身も、あのひとは私の兄です、と言ったのです」
神は言った。「分かっている。だから私もあなたが彼女に触れることまではさせなかった。直ちに、彼に彼女を返しなさい」
王はアブラハムに言った。「あなたはわれわれになんということをしたのか」
アブラハムは言った。「私は妻のゆえに殺されることを恐れたのです。また事実、彼女は私の妹でもあるのです。私の父の娘ですが、母の娘ではないのです。それで私の妻となったのです。(異母妹ということか。同母妹であろうが異母妹であろうが、妹であることには変わりないのではないか)」
王アビメレクはアブラハムに羊、牛、男女の奴隷などを持たせて送り出した。一方、神はアビメレクの妻や侍女たちが再び妊娠することができるようにした。神はサラのゆえに宮廷の女たちの胎をいったん閉ざしておいたのである。
サラは男児を生んだ。アブラハムは男児をイサクと名づけ、八日目に割礼を施した。ハガルの方はその子イシュマエルを連れて家を出ていたが、神はイシュマエルも一民族の祖となるようにした。
アブラハムとアビメレクの関係は良好であった。アブラハムはアビメレクに七匹(シェバ)の子羊を提供し「この井戸(ベエル)を掘ったことの証拠にしてください」といった。それで、この場所をベエル・シェバと呼ぶようになった。アブラハムはそこに一本のぎょりゅうの木を植え、永遠の神、主の御名を呼んだ。そこからペリシテの国へ行き、そこに永いあいだ寄留した。
神はアブラハムを試された。「あなたの子イサクをモリヤの地に行き、彼を焼き尽くす献げものにしなさい」
次の朝早くアブラハムは薪を息子に背負わせ、自分は火と刃物をもって神が命じた場所に赴いた。イサクは言った。「献げものはどこにありますか」「わたしの子よ、献げものはきっと神が備えてくださる」
神が命じた場所に着くと、アブラハムはそこに祭壇を築き、薪を並べ、イサクを縛って、薪の上に載せた。そして刃物でイサクを屠ろうとしたその時、天から主の使いが「アブラハム、アブラハム」と呼びかけた。彼が「はい」と答えると、使いは言った。「その子に手を下すな。あなたが神を畏れる者であることが分かったからだ。あなたは自分の独り子ですら私に献げることを惜しまなかった」
アブラハムが目を凝らして見回すと、一匹の雄羊がいた。アブラハムはそれを捕まえ、献げものにした。
使いが言った。「私は自らにかけて誓う、と主は言われる。あなたがこの事を行ない、自分の独り子ですら惜しまなかったので、あなたを豊かに祝福し、あなたの子孫を天の星々のように、海辺の砂のように増やそう。あなたの子孫は敵の城門を勝ち取る。地上の諸国民はすべてあなたの子孫によって祝福を得る。あなたが私の声に聞き従ったからである」
アブラハムはベエル・シェバへ行って住んだ。
アブラハムの弟ナホルは妻ミルカとの間に八人の子を産んだ。側女レウマとの間に四人の子を産んだ。ミルカとの間の子ベトエルは娘リベカを生んだが、この娘は将来イサクの妻になることになる。
サラは127歳で死んだ。アブラハムはヘトの人々の土地を買い、そこにサラを埋葬した。
アブラハムは彼が信頼を寄せている年寄りの僕にいった。「手をわたしの腿の間に入れ、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい。私はイサクの妻にはカナンの娘ではなく、私の一族のいる故郷の娘を希望している。私の故郷へ行って乙女を連れてくるように」
僕はいった。「もし先方の娘がここに来るのをいやがったら、あなたの息子をあなたの故郷にお連れしてもよいですか」
「それはならない。私の主は私に、私の子孫にこの土地を与えるとおっしゃったのだから」
僕はナホルのいるアラム・ナハライムへ向かって出発した。女たちが水を汲みに来る夕方、彼はらくだを井戸の傍らに休ませ、祈った。「主人アブラハムの神、主よ。この町の娘たちが水を汲みにきたら、私は『どうか水を飲ませてください』と頼んでみます。その娘が『どうぞお飲みください』といったら、彼女こそイサクの妻となるとあなたがお決めになった人だということにさせて下さい」
僕が祈り終わらないうちに、見よ、リベカが水がめを肩に載せてやってきた。彼女が泉に下りて行き、水がめに水を満たして上がってくると、僕は駆け寄り、「水を飲ませてください」と言った。彼女は「どうぞお飲み下さい」と言い、らくだにも水を用意した。僕は彼女に彼女の素性を尋ねた。彼女は「ナホルの子ベトエルの娘です」と答え、「どうぞ我が家にお泊り下さい」といった。僕は神を称えて言った。「主はまさに私を主人の一族の家にたどり着かせて下さいました」
娘は走って行き、家のものに出来事を告げた。リベカの兄ラバンが泉に駆けつけ、僕を招いた。僕がラバンの家に着くと、らくだには餌が与えられ、僕とその従者には足を洗う水が運ばれた。
食事が用意されたが、僕はまず彼の当地への旅の目的を説明した。そして神の恵みによりほかならぬアブラハムの兄弟の家に到着したことを伝えた。
リベカの父ベトエルと兄ラバンは喜んでリベカの結婚話を承知した。リベカも承知した。僕は用意してきた金銀の装身具や衣装をリベカに贈り、酒食のもてなしを受けた。家のものはリベカを祝福し、リベカの乳母を付き添わせて送り出した。
イサクはネゲブ地方に住んでいたが、そこから彼女を迎えにやってきた。リベカはイサクの姿を見て、ベールを取り出してかぶった。
アブラハムは再び妻をめとった。ケトラという女で、彼女との間に七人の子供が生まれた。アブラハムは全財産をイサクに譲った。側女の子供たちには贈り物を与え、ケデム地方へ移住させ、イサクから遠ざけた。
アブラハムは175歳で死んだ。イサクとイシュマエルは彼をマクペラの洞穴に葬った。サラと同じ洞穴である。
旧約聖書には面白い話がたくさんある。その中からアブラハムの生涯に関する話を要約してみた。「契約の地カナン」「割礼の制定」「妻を妹と偽る」「ソドムの滅亡」「高齢者の出産」「近親相姦」「生け贄イサク」など興味ある話が含まれる。(『創世記』11:27―25:11)
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西暦前二千年期の始めころカルデア国のウル(ユーフラテス下流にあった古代都市)にテラという男がいた。かれにはアブラム、ナホル、ハランという子があった。アブラムはサライを妻としていたが子はなかった。ナホルはハランの娘ミルカを妻としていた。ハランはテラより先に死に、遺児にロトがいた。
テラはアブラム、サライ、ロトを連れて、カナン地方(いまのパレスティナ辺り)へ向かった。ユーフラテス上流のハランにしばらく滞在したが、テラはそこで死んだ。
主なる神はアブラムにいった。「あなたは私が示す地に行きなさい。あなたを大いなる国民にしよう」
アブラムがハランを出発したとき、彼は七十五歳であった。彼はサライとロトと全財産、さらにハランで加わった人々とともにカナンへ向かった。シケム(ガリラヤ湖と死海を結ぶヨルダン川の中流の西方)の聖所、モレの樫の木まで来たとき、主がアブラムに現れて言った。「あなたの子孫にこの土地を与える。」アブラムはそこに祭壇を築いた。
さらに南に進んで、ベテルとアイの間に天幕を張って、祭壇を築いた。さらに旅をつづけ、ネゲブ地方(ネゲブ砂漠辺り)に達した。
その地に飢饉があったのでエジプトに下った。アブラムは妻に言った。「お前は美人だから、エジプト人がお前を得るために私を殺すかも知れない。『私はこのひとの妹だ』といってくれ」
ファラオは彼女の評判を聞いて宮廷に召し入れ、アブラムには相当の贈り物をした。主なる神は怒って宮廷の人々を恐ろしい病気にかからせた。ファラオはアブラムに言った。
「あなたは私になんということをしたのか。妹だというから、妻として召し入れたのだ。さあ、彼女を連れて立ち去ってもらいたい」 ファラオは彼に妻を返し、すべての持ち物を持たせて立ち去らせた。
アブラムはネゲブ地方へ戻った。そしてベテルとアイの間の、以前、天幕を張った場所に来た。アブラムとロトはたくさんの財産を抱えていたので、いつまでも一緒にいることはできず、別れることにした。
ロトはヨルダン川流域の低地一帯を選んで、東へ進んだ。そこにはソドムとゴモラの地があったが、当時はエジプトのように繁栄していた。アブラムはカナン地方へ進み、ヘブロン(死海中央の西)にあるマムレの樫の木のところに住み、そこに祭壇を築いた。
当時、ソドムの王とゴモラの王は他の諸王と戦っていたが、シディムの谷の戦いで敵に敗れ、ソドムにいたロトも財産もろとも敵国に拉致された。
アブラムはロトの窮状を知って318人の仲間とともに敵を追ってダマスコまで行き、ロトとその財産を取り返した。アブラムが勝利して帰還すると、ソドムの王は彼を迎え、彼の神を称えた。
主がアブラムに幻の中で現れ、「あなたの受ける報いは大きいであろう」といったとき、アブラムは「私に何を下さるというのですか。私には子供がありません」といった。主は「あなたの子孫は天の星のごとく数限りなくなるだろう」と答えた。夕方アブラムは深い眠りの中で主がかれに言うのを聞いた。「あなたの子孫は異邦の国で寄留者となり、四百年のあいだ奴隷にされて苦しむであろう。私はその国を裁くであろう。あなたの子孫は多くの財産を携えて脱出するであろう」。(モーセ率いるエジプト脱出のことであろう。)
その日、主はアブラムと契約を結んで言われた。「あなたの子孫にこの土地を与える。エジプトの川から大河ユーフラテスに至るまでだ」
サライにはハガルというエジプト人の女奴隷がいた。サライはアブラムに言った。「主は私には子供を授けてくれません。ハガルの寝所に入ってください」
アブラムはそうした。ハガルは身ごもり、サライを軽んじ始めたので、サライは怒った。ハガルは逃げた。ハガルが生んだ子は主によりイシュマエルと名づけられた。
アブラムが九十九歳になったとき主が現れて言った。「私は全能の神である。あなたは私に従って歩みなさい。あなたは多くの国民の父となる。あなたはもはやアブラムではなく、アブラハムと名乗りなさい。あなたと私の契約の印に、あなたたちの男子はすべて割礼を受けなさい。生まれてから八日目に受けなければならない。それによって、私たちの契約はあなたがたの体に記されて永遠の契約となる。あなたの妻はサライでなく、サラと呼びなさい。私は彼女に男の子を与えよう」
アブラハムはひれ伏した。しかし笑って、ひそかに言った。「百歳の男に子供が生まれるだろうか。五十歳のサラに子供が産めるだろうか」。神は言った。「サラが生む子にはイサク(彼は笑う)と名づけなさい」
アブラハムはその日のうちに身内の者全員に割礼を施した。
アブラハムに見知らぬ三人の人間が現れてサラに子供が生まれることを告げた。サラは天幕の入り口でそれを聞いた。彼女には月のものがとうに無くなっていた。サラはひそかに笑った。
主はアブラハムに言った。「なぜサラは笑ったのか。主に不可能なことはない」。サラは恐ろしくなり「私は笑いませんでした」と言った。主は言った。「いや、確かに笑った」
ソドムの町は性的不道徳で評判になっていた。神はソドムを罰しようと考えた。アブラハムはソドムのために弁じた。
「ソドムに正しいものが五十人いるとしてもソドムを許さないのでしょうか」「五十人いるならば許そう」
「あえて申し上げます。四十五人いたらどうでしょうか」「四十五人いたら許そう」
「もしかすると四十人しかいないかも知れません」「その四十人のために許そう」
「主よ、どうかお怒りにならないでください。三十人しかいないかも知れません」「もし三十人いるなら罰しない」
「あえて申し上げます。二十人しかいないかも知れません」「その二十人のために滅ぼさない」
「主よ、どうかお怒りにならずに、もう一度だけ言わせてください。もしかすると十人しかいないかも知れません」「その十人のために滅ぼさない」
主はそう言うと去って行った。
二人の御使いがソドムに着いたとき、ロトはソドムの門のところに坐していた。ロトは二人を見て地に触れ伏して「どうか私の家にお泊りください」といった。彼らがロトの家で床に就くか就かないうちに、ソドムの町の男たちが押し寄せ、「今夜お前のところに来た連中をなぶらさせよ」
ロトは「私には娘が二人います。彼女らを差し出しますから、あの客人には手を出さないでください」。男たちは口々にいった。「どけ。よそ者のくせに、指図などするな。まずお前をなぶってやろう」
二人の客人は男たちに目つぶしを食らわせ、ロトを家に引きいれて、戸を閉めて、ロトに言った。「あなたはあなたの身内を連れてここを脱出しなさい。われわれは主に命じられてこの町を滅ぼしに来たのです」
ロトは妻と二人の娘を連れて脱出した。主は言われた。「命がけで逃げよ。後ろを振り返ってはならない」
太陽が昇ったころ、主はソドムとゴモラの上に硫黄の火を降らせ、ソドムとあたりの低地の住民をことごとく滅ぼした。ロトの妻は後ろを振り返ったので塩の柱になった。低地一帯からは炉の煙のように煙が立ち昇っていた。(正しい者は結局ロトら数人で、十人に満たなかったということか。いま死海南端の底にソドムとゴモラの遺跡が沈んでいるといわれる。)
ロトは二人の娘と山の洞穴に住んだ。姉が妹に言った。「父は年老いました。このあたりに男のひとがいません。父にぶどう酒を飲ませ、私たちが父と床を共にし、父から子種を得ましょう」
娘たちはそのようにした。ロトは酒に酔いつぶれてなにも分からなかった。こうして娘たちは父の子を身ごもった。姉は生まれた子にモアブ(父より)と名付けた。彼は今日のモアブ人の祖である。妹は生まれた子にベン・アミ(私の肉親の子)と名付けた。彼は今日のアンモンの人々の祖である。
アブラハムはネゲブ地方へ移り、カデシュとシュルの間に住んだ。ゲラルに滞在していた時アブラハムは妻サラのことを「私の妹です」と言ったので、ゲラルの王アビメレクはサラを召しいれた。その夜、神が王の夢に現れて「あなたは召し入れた女のゆえに死ぬ。その女は夫のある身だ」
王はいった。「彼が彼女は妹だと言ったのです。彼女自身も、あのひとは私の兄です、と言ったのです」
神は言った。「分かっている。だから私もあなたが彼女に触れることまではさせなかった。直ちに、彼に彼女を返しなさい」
王はアブラハムに言った。「あなたはわれわれになんということをしたのか」
アブラハムは言った。「私は妻のゆえに殺されることを恐れたのです。また事実、彼女は私の妹でもあるのです。私の父の娘ですが、母の娘ではないのです。それで私の妻となったのです。(異母妹ということか。同母妹であろうが異母妹であろうが、妹であることには変わりないのではないか)」
王アビメレクはアブラハムに羊、牛、男女の奴隷などを持たせて送り出した。一方、神はアビメレクの妻や侍女たちが再び妊娠することができるようにした。神はサラのゆえに宮廷の女たちの胎をいったん閉ざしておいたのである。
サラは男児を生んだ。アブラハムは男児をイサクと名づけ、八日目に割礼を施した。ハガルの方はその子イシュマエルを連れて家を出ていたが、神はイシュマエルも一民族の祖となるようにした。
アブラハムとアビメレクの関係は良好であった。アブラハムはアビメレクに七匹(シェバ)の子羊を提供し「この井戸(ベエル)を掘ったことの証拠にしてください」といった。それで、この場所をベエル・シェバと呼ぶようになった。アブラハムはそこに一本のぎょりゅうの木を植え、永遠の神、主の御名を呼んだ。そこからペリシテの国へ行き、そこに永いあいだ寄留した。
神はアブラハムを試された。「あなたの子イサクをモリヤの地に行き、彼を焼き尽くす献げものにしなさい」
次の朝早くアブラハムは薪を息子に背負わせ、自分は火と刃物をもって神が命じた場所に赴いた。イサクは言った。「献げものはどこにありますか」「わたしの子よ、献げものはきっと神が備えてくださる」
神が命じた場所に着くと、アブラハムはそこに祭壇を築き、薪を並べ、イサクを縛って、薪の上に載せた。そして刃物でイサクを屠ろうとしたその時、天から主の使いが「アブラハム、アブラハム」と呼びかけた。彼が「はい」と答えると、使いは言った。「その子に手を下すな。あなたが神を畏れる者であることが分かったからだ。あなたは自分の独り子ですら私に献げることを惜しまなかった」
アブラハムが目を凝らして見回すと、一匹の雄羊がいた。アブラハムはそれを捕まえ、献げものにした。
使いが言った。「私は自らにかけて誓う、と主は言われる。あなたがこの事を行ない、自分の独り子ですら惜しまなかったので、あなたを豊かに祝福し、あなたの子孫を天の星々のように、海辺の砂のように増やそう。あなたの子孫は敵の城門を勝ち取る。地上の諸国民はすべてあなたの子孫によって祝福を得る。あなたが私の声に聞き従ったからである」
アブラハムはベエル・シェバへ行って住んだ。
アブラハムの弟ナホルは妻ミルカとの間に八人の子を産んだ。側女レウマとの間に四人の子を産んだ。ミルカとの間の子ベトエルは娘リベカを生んだが、この娘は将来イサクの妻になることになる。
サラは127歳で死んだ。アブラハムはヘトの人々の土地を買い、そこにサラを埋葬した。
アブラハムは彼が信頼を寄せている年寄りの僕にいった。「手をわたしの腿の間に入れ、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい。私はイサクの妻にはカナンの娘ではなく、私の一族のいる故郷の娘を希望している。私の故郷へ行って乙女を連れてくるように」
僕はいった。「もし先方の娘がここに来るのをいやがったら、あなたの息子をあなたの故郷にお連れしてもよいですか」
「それはならない。私の主は私に、私の子孫にこの土地を与えるとおっしゃったのだから」
僕はナホルのいるアラム・ナハライムへ向かって出発した。女たちが水を汲みに来る夕方、彼はらくだを井戸の傍らに休ませ、祈った。「主人アブラハムの神、主よ。この町の娘たちが水を汲みにきたら、私は『どうか水を飲ませてください』と頼んでみます。その娘が『どうぞお飲みください』といったら、彼女こそイサクの妻となるとあなたがお決めになった人だということにさせて下さい」
僕が祈り終わらないうちに、見よ、リベカが水がめを肩に載せてやってきた。彼女が泉に下りて行き、水がめに水を満たして上がってくると、僕は駆け寄り、「水を飲ませてください」と言った。彼女は「どうぞお飲み下さい」と言い、らくだにも水を用意した。僕は彼女に彼女の素性を尋ねた。彼女は「ナホルの子ベトエルの娘です」と答え、「どうぞ我が家にお泊り下さい」といった。僕は神を称えて言った。「主はまさに私を主人の一族の家にたどり着かせて下さいました」
娘は走って行き、家のものに出来事を告げた。リベカの兄ラバンが泉に駆けつけ、僕を招いた。僕がラバンの家に着くと、らくだには餌が与えられ、僕とその従者には足を洗う水が運ばれた。
食事が用意されたが、僕はまず彼の当地への旅の目的を説明した。そして神の恵みによりほかならぬアブラハムの兄弟の家に到着したことを伝えた。
リベカの父ベトエルと兄ラバンは喜んでリベカの結婚話を承知した。リベカも承知した。僕は用意してきた金銀の装身具や衣装をリベカに贈り、酒食のもてなしを受けた。家のものはリベカを祝福し、リベカの乳母を付き添わせて送り出した。
イサクはネゲブ地方に住んでいたが、そこから彼女を迎えにやってきた。リベカはイサクの姿を見て、ベールを取り出してかぶった。
アブラハムは再び妻をめとった。ケトラという女で、彼女との間に七人の子供が生まれた。アブラハムは全財産をイサクに譲った。側女の子供たちには贈り物を与え、ケデム地方へ移住させ、イサクから遠ざけた。
アブラハムは175歳で死んだ。イサクとイシュマエルは彼をマクペラの洞穴に葬った。サラと同じ洞穴である。
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